天空率の概要
道路斜線制限をご存じでしょうか、
建物敷地の前面道路の反対側から、決められた勾配により建物の高さを制限する法律です。
で、最近、おや?と、思われる建物をよく見かけます。
「これ、明らかに道路斜線に当たってるから違反建物じゃね?」という建物です。
これ、実を言うと天空率を採用することにより、道路斜線に当たっててもOKと役所にお墨付きをもらって
正々堂々と建てられている建物です。(中には違反建物もあるかもしれませんが)
平成15年施行の天空率ですが、未だ良くわからない方もたくさんいらっしゃいます。
天空率習得には、難解な天空率関連条文の理解と、計算をおこなうソフトの操作習得が必須だからです。
ただ、それは我々設計者の仕事で、お施主様は覚える必要はございません。 実際の天空率計算は我々プロにお任せいただくとして、
天空率の概要を理解して、打合せや要望にご利用できる程度にかいつまんだ概要をご説明致します。
斜線制限では、
敷地に対して小さな建物でも、ほんの少しでも斜線に当たれば不適合 |
建物の高さ制限には、道路斜線制限や北側斜線制限、絶対高さ制限等、様々な法規制がありますが、長い歴史の中で
日本の建設事情に合わせ、制限緩和がおこなわれてきました。 その高さ制限緩和の法改正のひとつが天空率です。
道路斜線や北側斜線は、ほんの小さな建物でも、少しでも斜線にかかれば不適合となり、建物は建てられませんでした。
大きな間口の敷地に、小さな建物で道路の採光に影響が及ばない場合などは不条理な判断基準です。
天空率ではその様な不条理がなくなります。
天空率は斜線ではなく、より現実的な、建物と空の比率で判断するからです。
道路斜線や北側斜線制限が不適合でも、天空率が適合であれば制限は除外されます。
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天空率を採用するメリットはデザイン自由度と空間を有効に使えることです。
例えば、右図のような建物がほんの少し、
道路斜線をオーバーしたとします。
この場合、道路斜線に当たらないように、屋根のデザインを変更するか、建物を道路から離して解決していたのが道路斜線による今までの方法です。
だけど、
お施主さんとしては、2階のその部分は屋根形状に沿った勾配天井(空間の有効)にしたいし、外観デザイン(デザイン自由度)が変わるのがイヤな時。
その様な場合に天空率を採用してお施主さんのご要望に応えることができます。
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いきなりですが、
天空率の適合とは、計画建物と適合建物の天空率の比較判定し、
適合建物の天空率≦計画建物の天空率を確認することです。
適合建物とは
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道路斜線や北側斜線を適合できる最大の建物ボリュームです。
図では、道路斜線による最大建物ボリュームを表してます。
この場合、建ぺい率や、容積率、外壁後退距離等の規制は無視してかまいません。
あくまでも、敷地いっぱいに建てられるボリュームです。
そして、道路反対側の測定点から180度ぐるりと上空を見上げた場合、空と建物のシルエットの割合が、適合建物の天空率となります。
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計画建物とは
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実際に建てる建物のことです。
現実的には、建ぺい率や容積率、外壁後退距離などの規制がありますので、図のようなイメージになります。
そして、同じように、道路反対側の測定点から180度ぐるりと上空を見上げた場合、空と建物のシルエットの割合が、計画建物の天空率となります。
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判定基準
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左図はもろに斜線をオーバーして道路斜線規制は不適合です。
ですが、天空率の判定基準は、
適合建物と空の比率と、
計画建物と空の比率とでどっちが多いのかで判断します。
左図を見ても、何となく計画建物の方がたくさん空が見えそうと
イメージがわきませんか?
そして、天空率計算により、計画建物の方が空がたくさん見えればOKすなわち、
適合建物の天空率≦計画建物の天空率ということです。
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測定点から180度ぐるりと上空を見上げた場合???
上記で、
測定点から180度ぐるりと上空を見上げた場合、空と建物のシルエットの割合が、計画建物の天空率となります。
と言いましたが、いまいちピンとこないと思います。
無理もないと思います。
180度見渡すとか、人間の視界能力の範ちゅうを超えています。
イメージとして、180度の超広角魚眼レンズ付カメラで上空を見上げるそんな感じと思って頂いて良いと思います。
※解りやすく、イメージとして伝えるためにカメラレンズに例えていますが、厳密には透視図で球面に映ったシルエットが実際の天空図になります。
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ここからは、例として、道路斜線のサンプルに沿ってご説明致します。
天空率には道路斜線の他に、隣地斜線、北側斜線がありますがページの都合で割愛します。
天空率算定位置とは、適合建物と計画建物を見る測定点の事です。
道路斜線、隣地斜線、北側斜線それぞれに取り決めがあります。
北側斜線は、測定点の取り方が、道路斜線と違います。
- 低層住居専用地域内 4m外側の線上を1m以内の間隔で均等に配置
- 中高層住居専用地域 8m外側の線上を2m以内の間隔で均等に配置
- 測定点は、境界線ごとに計算をおこなわず、真北に面する境界線をひとつの計算領域とする。
ただし、地盤の高低差や低層住居専用地域内と中高層住居専用地域にまたがる場合は、
別の領域として、計算領域を分ける。
- 北側斜線天空計算図サンプルを別ウィンドウで開く
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測定点位置〜計画建物
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前面道路反対側の境界線上に、
道路幅の2分の1以内の間隔で
均等敷地間口と同距離に配置します。
- 例
- 前面道路幅=5m
- 敷地間口=9.877m
- 5/2=2.5m
- 9.877/2.5=3.9508分割
- 2.5m以下で割り付けするので、4分割
- 9.877/4=2.46925
- 答え2.469mで分割
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天空図〜計画建物
それで、NO.1〜NO.5の測定点から見たイメージが下図のようになります。これが天空図です。
この作業は、JWCADなどの建築ソフトでの作業になります。
計画建物の天空図
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算定位置 NO.1 |
算定位置 NO.2 |
算定位置 NO.3 |
算定位置 NO.4 |
算定位置 NO.5 |
測定点位置〜適合建物
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各測定点の天空図が完成したら、それぞれの天空率(空を占める割合)を求めます。
適合建物の天空率≦計画建物の天空率であれば適合の判定となります。
例では、比較の項目を見るとわかりますが、全て計画建物の天空率の値が大きいので適合となります。
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算定位置 NO.1
天空率 = 94.17 % |
算定位置 NO.2
天空率 = 92.72 % |
算定位置 NO.3
天空率 = 91.24 % |
算定位置 NO.4
天空率 = 91.45 % |
算定位置 NO.5
天空率 = 93.01 % |
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∨2.87 |
∨5.17 |
∨5.05 |
∨3.90 |
∨1.71 |
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算定位置 NO.1
天空率 = 91.30 % |
算定位置 NO.2
天空率 = 87.55 % |
算定位置 NO.3
天空率 = 86.19 % |
算定位置 NO.4
天空率 = 87.55 % |
算定位置 NO.5
天空率 = 91.30 % |
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平成15年に天空率が施行されて、随分たちますが、
現状、一般住宅において天空率を採用するケースは、まれなケースではないでしょうか?
それは、やはり難解でわかりづらい天空率関連条文によるものが大きいと思います。
また、その計算は、手計算ではとても間に合わず、天空率ソフト(私はフリーソフトのJWCADで計算をしますが)による計算をおこなわなければならないのも関係があるかもしれません。
その為に、今までは道路斜線による建物の斜めカットばかりの通りに
突然、道路斜線を無視したような建物が現われるとビックリされる方も未だにたくさんいらっしゃいます。
特に、北側斜線に関しては、あまり天空率ギリギリにまで建物を建てると、南側の隣地の方は
ビックリされますので、ある程度余裕を持って採用したいものです。
天空率の解説本はたくさん販売されてます。
カク企画も天空率をマスターするために、最初なにがなんだか解らず、たくさんの本を買ってしまいました。
で、カク企画でお奨めする天空率解説本はJw_cad 日影・天空率完全マスターです。
天空率を計算するためには天空率ソフトが使えなければならないのですが、
この本は、天空率の解説にとどまらず、JWCADの操作も併せて解説してくれています。
とても実践的な解説本でお奨めです。
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